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選択的注意

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◇選択的注意

 私たちのまわりには多くの情報が含まれているが、一度にそれらすべてを処理することはできない。何人かの人から一斉に話しかけられるととても話を聞くことはできないが、その中の1人に注意を向けると、その人の話が急にはっきりと大きく聞こえるように思える。 すなわち、注意を向けられた刺激は認知されるが、向けられなかった刺激は、ぼんやりと認知されるかまったく認知されなかったりする。このような私たちの認知機能選択的注意という。

 

 聴覚における選択的注意の例は、カクテルパーティー効果と呼ばれる現象にみられる。 大勢の人が集まる騒がしいパーティ会場でも、私たちは、必要や音の情報をうまく選択し、特定の人との会話が続けられる。 すぐ隣では別のグループが楽しそうにしゃべっていたとしても、ほとんど気にすることはない。しかしパーティーの様子を録音してみると、まわりの話し声や会場に流れる音楽などが意外に大きく入っており、話が聞き取りにくいことに気がつく。私たちは、物理的な音の大きさにそれほど差はなくても、その中から自分に必要な情報をうまく選択できるのである。 

 

◇初期の選択的注意研究

 注意を向けられなかった刺激は、全く処理されていないのだろうか。この点については、両耳分離聴という実験手続きによって、多くの研究がされている。これはヘッドフォンをつけた被験者の左右の耳に、異なるメッセージを同時に呈示する方法である。さらに、片方の耳からの情報に注意を向けさせるために、片方の耳から与えられた情報を、そのまま口に出して復唱するという追唱という手続きがとられる。そのあとで、追唱されなかったほうのメッセージの内容について質問がされる。 チェリー (1953)やモレー (1959)、トレイスマン (1960) の実験結果をまとめてみると、追唱されなかったほうのメッセージ、すなわち注意を向けなかった耳からの情報の内容は、ほとんど覚えていなかった。同じ単語を繰返し聞かされても、英語からフランス語へと言語が変わっても、被験者はそれに気づかなかった。ただ、何か声が聞こえているということや、性別などは認知された。したがって、音の高さなど情報の物理的な特徴は、注意を向けられていなくても処理できるが、意味的な情報はほとんど処理されていないと考えられた。

 しかし、注意されていないほうの情報でも、自分の名前のように熟知した刺激は認知される。また右耳から聞こえる物語を追唱する条件で、途中から物語が左耳に切り換えられると、被験者は左耳から聞こえる物語の続きをしばらく追唱した。本来なら物語が左耳に切り替わった時点で、その物語の追唱は終わっているはずであるが、意味的なつながりから反対の耳の情報を追唱したと考えられる。 このことは、注意されていない情報でも、意味処理がなされていることを示唆している。