マーシャ(Marcia, J.)/ アイデンティティ・ステイタス・自我同一性地位(identity status)
ポイント
アイデンティティ概念を実証的に研究するうえで最も貢献したのはマーシャ(Marcia, J.)である。マーシャはエリクソンのアイデンティティの考えを発展させた。マーシャは個人のアイデンティティ形成のあり方を判定するアイデンティティ・ステイタスidentity statusの概念を提唱し,半構造化面接法と文章完成法テストを用いてその測定を行なった。アイデンティティ・ステイタスの判定においては,アイデンティティの危機または探求の経験と,現在の傾倒(積極的関与)commitmentの二つの側面が重視された。
危機とは児童期までの過去の同一視を否定したり再吟味する経験を指している。また,傾倒とは危機後の意味ある選択肢の探求の末に自己決定したことに対してどれだけ強く関与し,自分の資源を投入しているか,そのあり方を示している。マーシャはこの二つの基準から政治的イデオロギー,宗教,職業などの各々の領域に対するアイデンティティのあり方を四つのステイタスに分類した。
アイデンティティの達成状況の4類型は、「アイデンティティ達成(achievement)」、「モラトリアム(moratorium)」、「早期完了(foreclosure)」、「アイデンティティ拡散(diffusion)」である。アイデンティティ達成は、危機を経験しており、積極的関与もしている状態である。自分の意思での選択に対して、責任を持っている。モラトリアムは、危機を現在経験しており、積極的関与はあったとしても曖昧な状態である。いくつかの選択肢に迷っており、不確かさを克服しようと努力している。早期完了は、危機の経験はないが、積極的関与はしている状態である。自分の目標と親の目標の間に不協和がない。アイデンティティ拡散は、危機の経験の有無については両方のタイプがあり、積極的関与はしていない。自分の人生について責任を持った主体的な選択ができず、途方にくれている状態である。
四つのステイタスは,固定的なものではなく,発達過程の中でシフトしていくと考えられている。たとえば,モラトリアムから達成への移行や逆に達成から拡散やモラトリアムへの移行(退行),フォークロージャーが拡散,モラトリアムを経て達成に移行する,などのアイデンティティ形成のプロセスにはさまざまな段階があると考えられる。しかし,いずれにしても発達上最も望ましい適応的な状態は達成であるとみなされている。
確認問題
[1]
下記は乳児期から高校生までの子どもの状態を記述している。これを説明する適切な言葉を書きなさい。
・高校3年生のHさんは進路を決めるにあたって、自分の性格に目を向け出したところ、自分が分からなくなり混乱を来すようになってしまった。
[2]
Marciaによるアイデンティティ・ステイタス面接においては、(a)と(b)の2つの視点のあり方から4つのステイタスが識別される。
(名古屋市立大学大学院 人間文化研究科 人間文化専攻)
[3]
青年期のアイデンティティの状盤を測定するにあたって、4つのステイタス(地位)に分類して理解する方法がある。4つのうち2つを取りあげ、そのステイタスの名称と概要を書け。
(名古屋市立大学大学院 人間文化研究科 人間文化専攻)
解答
[1]
アイデンティティ拡散
[2]
a:危機
b:積極的関与
[3]
アイデンティティ達成は、危機を経験しており、積極的関与もしている状態である。自分の意思での選択に対して、責任を持っている。モラトリアムは、危機を現在経験しており、積極的関与はあったとしても曖昧な状態である。いくつかの選択肢に迷っており、不確かさを克服しようと努力している。