ポイント
食行動障害および摂食障害群(feeding and eating disorders)
摂食障害とは、極端な食事制限や大量摂取と排出行為など、摂食の問題が含まれる精神疾患。
摂食または摂食に関連する行動に関して,以下のような持続的な障害が認められる。
・食物の摂取または吸収を変容させる
・身体的健康、心理社会的機能を大きく損なう
つまり、極端な食事制限、大量の食べ物の摂取、代償としての排出などが特徴である。
具体的な摂食障害群としては以下のものがある。
・神経性やせ症(神経性無食欲症:Anorexia nervosa:AN)
→摂食制限型と過食・排出型
・神経性過食症(神経性大食症:Bulimia nervosa:BN)
・過食性障害(BED)
・回避・制限性食物摂取症(ARFID)
・異食症(Pica)
・反芻症
神経性やせ症 / 神経性無食欲症(Anorexia nervosa:AN)
期待される値よりも体重減少が見られること、ボディ・イメージが歪んでいるため極端に痩せているにも関わらず,さらに痩せたいという願望を抱いている状態が特徴
神経性やせ症の分類
・摂食制限型:過去3カ月間に繰り返し行われる過食または排出行動
(自己誘発性嘔吐、または下剤など)を認められない
状態であり、摂食・絶食といった食事制限を行う
・過食・排出型…過食と排出行為(自己誘発嘔吐や下剤など)を伴う
思春期やせ症、拒食症とも呼ばれる。先進国を中心に増加しており、思春期・青年期の女性に多い。極端にやせているにも関わらずさらに痩せたいという願望を抱いているところからボディ・イメージが歪んでいるとされる。痩せている現状を認めないなど否認の強さが特徴で、痩せていない(痩せの否認、お腹は減っていない(空腹の否認)、疲れていない(疲労の否認)「3つのないを主張するため病識もない。絶食や、食べて吐くといった排出行為を行うこともある。神経性やせ症の場合、命の危機にかかわることもあるためそのような場合には入院によって点滴での栄養補給がなによりも大事になる。心理療法としては、家族療法や認知行動療法が適用されることがある。
神経性やせ症の治療における身体的側面
神経性やせ症において、BMIが13を下回るほど体重減少が著しいときは、身体的に危険な状況であり、直ちに身体的な治療を開始することが必要である。その際には、電解質などの補正カロリー摂取を恐れる本人に理解を示しつつ、身体的な抑制と経鼻移管などを用いた再栄養を開始する。
BMI17以上は軽度、17未満は中等度、16未満は重度、15未満は最重度と診断される。
肥満恐怖・やせ願望にとらわれ異常な食行動に没頭する現状からけして抜け出せないととの絶望感から、なかば諦めの態度をとることもあるが、一方で、低体重による体力低下や身体的問題への不安や食事に生活が翻弄される苦痛から逃れたいとの思いも持っている。
神経性やせ症の治療を始めるうえで、常に注意を払わねばならないことに、種々の身体的合併症がある。体力低下に伴う易疲労性や筋力低下はもとより、栄養障害による低血糖や肝機能障害、過食・嘔吐に伴う消化器障害や低カリウム血症などの電解質異常、無月経、低血圧や徐脈、不整脈などが頻発する。また、若年患者の低身長や中高年患者の骨粗鬆症も予後を左右する。重度のやせにより致命的状況が引き起こされる可能性にも考慮し、必要時には入院治療を選択するべきである。
神経性やせ症の治療における精神的・心理的側面
神経性やせ症の患者は家族などに強く勧められて渋々受診することが多いように、治療に対して消極的か抵抗を示すことが多い。患者の持つ体重が増えることへの恐怖を捉えていくことが大切である。
併発する抑うつ気分や不安・焦燥感、強迫症状などの精神症状は、栄養障害による神経生理学的変化や心理社会的背景に起因するもので、時に薬物療法が必要となる。しかし、神経性やせ症の根本的治療には、発症要因や維持要因である心理的問題に対する治療が必要。治療では、心理的問題が患者の低い自尊感情と他者からの承認欲求や強迫的・完全主義的性格、あるいは言語化表現できない不安と関心を引くことでの安心などといった摂食障害者に特徴的な心性と結びついていることを理解し、患者がより現実的な行動をできるように認知行動療法を用いたり、対人関係療法などのその他の心理療法を用いて働きかける。これらの治療に加えて、疾患教育や集団療法、家族療法などさまざまな方面から神経性やせ症治療への関わりができる。
神経性やせ症の診断基準
A. 必要量と比べてカロリー摂取を制限し、年齢、性別、成長曲線、身体的健康状態に対する有意に低い体重に至る。有意に低い体重とは、正常の下限を下回る体重で、子どもまたは青年の場合は、期待される最低体重を下回ると定義される。
→食事量が少なくて低体重
B. 有意に低い体重であるのにも関わらず、体重増加または肥満になることに対する強い恐怖、または体重増加を妨げる持続した行動がある。
→体重増加や肥満への過剰な恐怖or体重増加を妨げる行為の持続
C. 自分の体重または体型の体験の仕方における障害、自己評価に対する体重や体型の不相応な影響、または現在の低体重の深刻さに対する認識の持続的欠如。
→身体像障害、体重や体型への過度なとらわれ、低体重の問題の否認
<神経性やせ症の分類>
摂食制限型:過食または排出行動がない
過食・排出型:過食または排出行動を繰り返す
神経性やせ症の治療
治療薬は基本的にない。抗精神病薬が良いとされる報告は少なからずある。軽症例であれば、認知行動療法などのカウンセリングで治療される。
神経性過食症 / 神経性大食症(Bulimia nervosa:BN)
ブリミア、ネルボーザとも呼ばれる。むちゃ食いの存在が中核であり大量の食物を一度に食べるが、その代償行動として自己誘発性嘱吐や下剤などの利用による排出を行うことが特徴である。神経性やせ症と対照的なところは、むちゃ食い後の苦悩といわれるように、本人に病識があり受診につながる場合が多い。認知行動療法や対人関係療法などが効果的と言われている。
神経性過食症の治療における身体的側面
代償行為による身体への影響を扱う必要がある。
BMI18以上で過食と不適切な代償行為があるのが神経性過食症の特徴である。不適切な代償行為による、身体的な側面として、歯や肌はボロボロになり、嘔吐の影響で顔はむくみ毛細血管が切れ、内臓は弱り、本格的な病気へと進行していきます。
過食嘔吐によって体力や集中力は落ち、仕事や家事に集中ができなくなり、大切な人との時間よりも過食嘔吐の欲求が勝つようになり、人間関係や社会的な信頼も失っていく。
神経性過食症と神経性やせ症は、やせているかどうかで区別されるが、強い肥満恐怖を背景に食事制限を行い場合によっては過食が生じる点で、本質的には同じ病態と考えてよい。
神経性過食症の治療における精神的・心理的側面
肥満恐怖と痩せ願望に寄り添うことが必要。肥満恐怖も過食・嘔吐の衝動も自分でコントロールのできない非常に苦しいものである。
摂食障害患者は一般に繊細であり、自分が否定されたと思うと心を閉ざしてしまう傾向がある。認知行動療法や対人関係療法のように枠組みが明確な治療法には入りやすい場合があるが、長続きしないことも少なくない。心理カウンセリングにおいても、適宜現実的な食行動問題を扱うなど柔軟な対応が望ましい。
神経性過食症の診断基準
A. 反復する過食エピソード。過食エピソードは以下の両方によって特徴づけられる。
(1)他とはっきり区別される時間帯に(ex:任意の2時間の間に)、ほとんどの人が同様の状況で同様の時間内で食べる量よりも明らかに多い食物を食べる。
→過食
(2)そのエピソードの間は、食べることを抑制できないという感覚。(ex:食べるのをやめることができない、または、食べる物の種類や量を抑制できないという感覚)
→食べることが制御・抑制できない
B. 体重増加を防ぐための反復する不適切な代償行動。例えば、自己誘発性嘔吐;緩下剤、利尿薬、その他の医薬品の乱用;絶食;過剰な運動など
→不適切な代償行動
C. 過食と不適切な代償行動がともに平均して3ヶ月間にわたって少なくとも週1回は起こっている
→過食と不適切な代償行動が3ヶ月間に少なくとも週1回
D. 自己評価が体型および体重の影響を過度に受けている
→体型・体重の影響で自己評価が低い
E. その障害は、神経性やせ症のエピソードの期間にのみ起こるものではない
→痩せていない
過食性障害(Binge-Eating Disorder)
不適切な代償行為には及ばず過食が繰り返される病態。DSM-5から設けられた概念。
過食性障害の診断基準
A. 反復する過食エビソード。過食エビソードは以下の両方によって特徴づけられる。
(1)他とはっきり区別される時間帯に(例:任意の2時間の間に)、ほとんどの人が同様の状況で同様の時間内に食べる量よりも明らかに多い食物を食べる.
→過食
(2)そのエピソードの間は、食べることを抑制できないという感覚(例:食べるのをやめることができない、または、食べる物の種類や量を抑制できないという感覚)
→抑制できない
B. 過食エピソードは、以下のうち3つ(またはそれ以上)のことと関連している。
(1)通常よりずっと速く食べる。
→速く食べる
(2)苦しいくらい満腹になるまで食べる。
→満腹まで
(3)身体的に空腹を感じていないときに大量の食物を食べる。
→空腹でなくとも
(4)自分がどんなに多く食べているか恥ずかしく感じるため1人で食べる。
→過食を自覚するまで
(5)後になって、自己嫌悪、抑うつ気分、または強い罪責感を感じる。
→罪責感
C. 過食に関して明らかな苦痛が存在する。
D. その過食は、平均して3カ月間にわたって少なくとも週1回は生じている。
E. その過食は、神経性過食症の場合のように反復する不適切な代償行動とは関係せず、神経性過食症または神経性やせ症の経過の期間のみに起こるのではない。
確認問題
[1]
摂食障害に関して下記の設問に答えなさい。
(1)摂食障害の分類と診断基準について記述しなさい。
(2)摂食障害の治療について記述しなさい。
(3)摂食障害は我が国ではこの20年間で飛躍的に増加したが、その発病に至る精神病理、社会文化的背景について記述しなさい。
[2]
神経性過食症/神経性大食症に見られる「不適切な代償行動」にはどのような行動があるか、具体例を2つ挙げなさい。
(名古屋市立大学大学院 人間文化研究科 人間文化専攻)
[3]
下記の用語について簡単に説明しなさい。
・eating disorder
解答
[1]
(1)
摂食障害の分類として主なものは、「神経性やせ症」「神経性過食症」、さらに、DSM-5で追加された「過食性障害」の3つである。
DSMにおける、神経性無食欲症の診断基準の主なポイントは、「食事量が少なくて低体重」「体重増加や肥満への過剰な恐怖か、体重増加を妨げる行為の持続」「身体像障害や、体重や体型への過度なとらわれや、低体重の問題の否認」がある。
神経性過食症の診断基準の主なポイントは「制限できず、沢山食べてしまう(過食)」「不適切な代償行為(自己誘発性幅吐や下剤乱用、過活動拒食など)に及ぶ」があげられる。
不適切な代償行為に及んでいなれば、過食性障害の診断を検討する。神経性過食症と同様の治療が試みられる。
過食性障害は、不適切な代償行為には及ばず過食が繰り返される病態である。
(2)
神経性やせ症の場合、命の危機にかかわることもあるためそのような場合には入院によって点滴での栄養補給がなによりも大事になる。心理療法としては、家族療法や認知行動療法が適用されることがある。
神経性過食症の場合は、認知行動療法や対人関係療法などが効果的と言われている。
(3)
養育者との関係において、心理的・生理的欲求への適切な応答を十分に経験なかったことにより、悪い対象関係が優位に内在化されており、自我機能が十分に働かず、スプリッティング基礎とする原始的防衛機制が働きやすいとされる。
また、むちゃ食いや嘱吐による身体感覚に集中し、苦痛内的体験からの解放を求める乖離も見られる。
性格特性としてはしばしば完全主義傾向・強迫傾向が強く見られる。
無食や排出による体重減少を強化子とする階癖行動としての側面も強い。
家族要因として、支配的な母親および存在感の薄い父親、という様相が見られやすい。
社会的背景としては、西洋的価値観に基づくダイエットブームとやせ顧望が繰り返し指摘される。日本ではアメリカを中心とする欧米のファッションモデルなどがよく紹介されるようになった1970年代以降、摂食障害患者が急増しており、また、1980年代までテレビのなかったフィジーでも、欧米のテレビ番組が放映され始めて以来、摂食障害が急増した、という例も報告されている。
[2]
不適切な代償行動として、自己誘発性嘱吐、下剤などの利用による排出をあげる。自己誘発性嘱吐は、むちゃ食いの後、トイレなどで食べたものを無理やり自分で吐いてしまうことである。また、下剤や利尿剤の乱用は、「排出行動」と呼ばれている。排出行動を繰り返すと、身体へのダメージが生じる。
[3]
ボディイメージの障害と摂食の問題(極端な食事制限や大量の食糧摂取と排出行為)にかかわる精神疾患である。神経性無食欲症(神経性やせ症)と神経性過食症(神経性大食症)に大きく分けることができる。