ポイント
反応性アタッチメント障害 / 反応性愛着障害(Reactive Attachment Disorder)
反応性アタッチメント障害 / 反応性愛着障害の診断基準
A. 以下の両方によって明らかにされる、大人の養育者に対する抑制され情動的に引きこもった行動の一貫した様式
(1)苦痛なときでも、その子どもはめったにまたは最小限にしか安楽を求めない。
(2)苦痛なときでも、その子どもはめったにまたは最小限にしか安楽に反応しない。
B. 以下のうち少なくとも2つによって特徴づけられる持続的な対人交流と情動の障害
(1)他者に対する最小限の対人交流と情動の反応
(2)制限された陽性の感情
(3)大人の養育者との威嚇的でない交流の間でも、説明できない明らかないらだたしさ、悲しみ、または恐怖のエビソードがある。
C. その子どもは以下のうち少なくとも1つによって示される不十分な養育の極端な様式を経験している。
(1)安楽、刺激、および愛情に対する基本的な情動欲求が養育する大人によって満たされることが持続的に欠落するという形の社会的ネグレクトまたは剥奪
(2)安定したアタッチメント形成の機会を制限することになる。主たる養育者の頻回な変更(例:里親による養育の頻繁な交代)
(3)選択的アタッチメントを形成する機会を極端に制限することになる、普通でない状況における養育(例:養育者に対して子どもの比率が高い施設)
D. 基準Cにあげた養育が基準Aにあげた行動障害の原因であるとみなされる(例:基準Aにあげた障害が基準Cにあげた適切な養育の欠落に続いて始まった)
E. 自閉スペクトラム症の診断基準を満たさない。
F. その障害は5歳以前に明らかである。
G. その子どもは少なくとも9カ月の発達年齢である
心的外傷後ストレス障害(PTSD:posttraumatic stress disorder)
心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、事故や震災といった強烈なトラウマ体験により、強い恐怖感、感覚の麻療やフラッシュバック、睡眠障害などの症状が1ヶ月以上続く状態をいう。
その人の生命や存在に強い衝撃をもたらす出来事を外傷性ストレッサーと呼び、その体験を外傷(トラウマ)体験と呼ぶ。
症状となるポイントは、トラウマ体験を繰り返し思い出してしまう「外傷体験の反復想起(再体験)→診断基準B」、その結果として緊張状態が続く「過覚醒」→診断基準E、そして外傷体験を想起させる刺激からの「回避」→診断基準C、誰も信じられない、世界は危険だといった否定的な認知や、ポジティブ感情が経験されないという「感情と認知の否定的変化」→診断基準D、の4つである。
心的外傷後ストレス障害の治療
治療においては薬物の使用や行動療法、認知行動療法、EMDRなどの効果が認められる。
cf.
心的外傷後成長(posttraumatic growth)
心的外傷後の成長とは、トラウマ的な人生の出来事の後の正の人格変化を指す。外傷性の出来事を経験することは、特定の個人の人格に変革的な役割を果たすことができ、成長を促進することができる。たとえば、トラウマを経験した個人は、より大きな楽観主義、ポジティブな影響、ソーシャルサポートへの満足、およびソーシャルサポートリソースの数の増加を示すことが示されている。
心的外傷後ストレス障害の診断基準
注:以下の基準は成人、青年、6歳を超える子どもについて適用する。
A. 実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受ける出来事への、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の形による曝露:
→心的外傷的出来事への暴露
(1)心的外傷的出来事を直接体験する。
(2)他人に起こった出来事を直に目撃する。
(3)近親者または親しい友人に起こった心的外傷的出来事を耳にする。家族または友人が実際に死んだ出来事または危うく死にそうになった出来事の場合、それは暴力的なものまたは偶発的なものでなくてはならない。
(4)心的外傷的出来事の強い不快感をいだく細部に、繰り返しまたは極端に露される体験をする
(例:遺体を収集する緊急対応要員、児童虐待の詳細に繰り返し曝露される警官)
注:基準A4は、仕事に関連するものでない限り、電子媒体、テレビ、映像、または写真による曝露には適用されない。
B. 心的外傷的出来事の後に始まる、その心的外傷的出来事に関連した、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の侵入症状の存在
→侵入症状
(1)心的外傷的出来事の反復的、不随意的、および侵入的で苦痛な記憶
注:6歳を超える子どもの場合、心的外傷的出来事の題または側面が表現された遊びを繰り返すことがある。
(2)夢の内容と感情またはそのいずれかが心的外傷的出来事に関連している、反復的で苦痛な夢
注:子どもの場合、内容のはっきりしない恐ろしい夢のことがある。
(3)心的外傷的出来事が再び起こっているように感じる、またはそのように行動する解離症状
(例:フラッシュバック)(このような反応は1つの連続体として生じ、非常に極端な場合は現実の状況への認識を完全に喪失するという形で現れる)
注:子どもの場合、心的外傷に特異的な再演が遊びの中で起こることがある。(4)心的外傷的出来事の側面を象徴するまたはそれに類似する、内的または外的なきっかけに曝露された際の強烈なまたは遷延する心理的苦痛
(5)心的外傷的出来事の側面を象徴するまたはそれに類似する、内的または外的なきっかけに対する顕著な生理学的反応
C. 心的外傷的出来事に関連する刺激の持続的回避。心的外傷的出来事の後に始まり、以下のいずれか1つまたは両方で示される。
→回避
(1)心的外傷的出来事についての、または密接に関連する古痛な記憶、思考、または感情の回避、または回避しようとする努力
(2)心的外傷的出来事についての、または密接に関連する苦痛な記憶、思考、または感情を呼び起こすことに結びつくもの(人、場所、会話、行動、物、状況)の回避、または回避しようとする努力
D. 外傷的出来事に関連した認知と気分の陰性の変化。心的外傷的出来事の後に発現または悪化し、以下のいずれか2つ(またはそれ以上)で示される。
→認知と気分の陰性変化
(1)心的外傷的出来事の重要な側面の想起不能(通常は解離性健忘によるものであり、頭部外傷やアルコール、または薬物など他の要因によるものではない)
(2)自分自身や他者、世界に対する持続的で過剰に否定的な信念や予想(例:「私が悪い」、「誰も信用できない」、「世界は徹底的に危険だ」、「私の全神経系は永久に破壊された」
(3)自分自身や他者への非難につながる心的外傷的出来事の原因や結果についての持続的でゆがんだ認識
(4)持続的な陰性の感情状態(例:恐怖、戦傑、怒り、罪悪感、または恥)
(5)重要な活動への関心または参加の著しい減退
(6)他者から孤立している、または疎遠になっている感覚
(7)陽性の情動を体験することが持続的にできないこと(例:幸福や満足、愛情を感じることができないこと)
E. 心的外傷的出来事と関連した、覚醒度と反応性の著しい変化。心的外傷的出来事の後に発現または悪化し、以下のいずれか2つ(またはそれ以上)で示される。
→過覚醒
(1)人や物に対する言語的または身体的な攻撃性で通常示される、(ほとんど挑発なしでの)いらだたしさと激しい怒り
(2)無謀なまたは自己破壊的な行動
(3)過度の警戒心
(4)過剰な驚愕反応
(5)集中困難
F. 障害(基準B、C、DおよびE)の持続が1カ月以上
→1ヶ月以上の持続
G. その障害は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業時、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
→機能障害
H.その障害は、物質(例:医薬品またはアルコール)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。
→除外基準
>いずれかを特定せよ
解離症状を伴う:症状が心的外傷後ストレス障害の基準を満たし、加えてストレス因への反応として、次のいずれかの症状持続的または反復的に体験する。
1. 離人感:自分の精神機能や身体から遊離し、あたかも外部の傍観者であるかのように感じる持続的または反復的な体験(例:夢の中にいるような感じ、自己または身体の非現実感や、時間が進むのが遅い感覚)
2. 現実感消失:周囲の非現実感の持続的または反復的な体験(例:まわりの世界が非現実的で、夢のようで、ほんゃりし、またはゆがんでいるように体験される)
注:この下位分類を用いるには、解離症状が物質(例:アルコール中毒中の意識喪失、行動)または他の医学的疾患(例:複部分発作)の生理学的作用によるものであってはならない。
急性ストレス障害(ASD:acute stress disorder)
急性ストレス障害の診断基準
A. 実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受ける出来事への、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の形による暴露:
(1)心的外傷的出来事を直接体験する。
(2)他人に起こった出来事を直に目撃する。
(3)近親者または親しい友人に起こった出来事を耳にする
注:家族または友人が実際に死んだ出来事または危うく死にそうになった出来事の場合、それは暴力的なものまたは偶発的なものでなくてはならない。
(4)心的外傷的出来事の強い不快感をいだく細部に、繰り返しまたは極端に曝露される体験をする(例:遺体を収集する緊急対応要員、児童虐待の詳細に繰り返し曝露される警官)
注:仕事に関連するものでない限り、電子媒体、テレビ、映像、または写真による曝露には適用されない。
B. 心的外傷的出来事の後に発現または悪化している、侵入症状、陰性気分、解離症状、回避症状、覚醒症状の5領域のいずれかの、以下の症状のうち9つ(またはそれ以上)の存在
侵入症状
(1)心的外傷的出来事の反復的、不随意的、および侵入的で苦痛な記憶
注:子どもの場合、心的外傷的出来事の主題または側面が表現された遊びを繰り返すことがある。
(2)夢の内容と感情またはそのいずれかが心的外傷的出来事に関連している、反復的で苦痛な夢
注:子どもの場合、内容のはっきりしない恐ろしい夢のことがある。
(3)心的外傷的出来事が再び起こっているように感じる、またはそのように行動する解離症状(例:フラッシュバック)(このような反応は1つの連続体として生じ、非常に極端な場合は現実の状況への認識を完全に喪失するという形で現れる)
注:子どもの場合、心的外傷に特異的な再演が遊びの中で起こることがある。(4)心的外傷的出来事の側面を象徴するまたはそれに類似する、内的または外的なきっかけに反応して起こる、強烈なまたは遷延する心理的苦痛または顕著な生理的反応
陰性気分
(5)陽性の情動を体験することの持続的な不能(例:幸福、満足、または愛情を感じることができない)
解離症状
(6)周囲または自分自身の現実が変容した感覚(例:他者の視点から自分を見ている、ぼーっとしている、時間の流れが遅い)
(7)心的外傷的出来事の重要な側面の想起不能(通常は解離性健忘によるものであり、頭部外傷やアルコール、または薬物など他の要因によるものではない)
回避症状
(8)心的外傷的出来事についての、または密接に関連する苦痛な記憶、思考、または感情を回避しようとする努力
(9)心的外傷的出来事についての、または密接に関連する苦痛な記憶、思考、または感情を呼び起こすことに結びつくもの(人、場所、会話、行動、物状況)を回避しょうとする努力
覚醒症状
(10)睡眠障害(例:入眠や睡眠維持の困難、または浅い眠り)
(11)人や物に対する言語的または身体的な攻撃性で通常示される。(ほとんど挑発なしでの)いらだたしさの行動と激しい怒り
(12)過度の警戒心
(13)集中困難
(14)過剰な驚愕反応
C. 障害(基準Bの症状)の持続は心的外傷への曝露後に3日〜1ヶ月
注:通常は心的外傷後すぐ症状が出現するが、診断基準を満たすには持続が最短でも3日、および最長でも1カ月の必要がある。
D. その障害は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている
E. その障害は、物質(例:医薬品またはアルコール)または他の医学的疾患(例:軽度外傷性脳損傷)の生理学的作用によるものではなく、短期精神病性障害ではうまく説明されない
確認問題
[1]
心的外傷後ストレス障害(PTSD)の基本的症状は、精神的不安定による不安や不眠などの過(1)症状、原因となった出来事に関連する事物や場所などに対する(2)傾向、出来事や体験などの一部あるいは全体にかかわる(3)であり、これらの症状が、危うく死ぬまたは重症を負うような出来事の後(4)以上持続している場合にはPTSD、それ未満の場合に急性ストレス障害(ASD)と診断する。
(法政大学大学院 人間社会研究科 臨床心理学専攻)
[2]
PTSD(心的外傷後ストレス性障害)について、(1)〜(3)の問いに答えなさい。
(1)原因となる極度のストレスのタイプを3つ挙げよ。
(2)主要な症状を3つ挙げよ。
(3)トラウマへの心理療法においては、トラウマ体験の再現について、「トラウマ体験を表現することは治療必要である」という視点と、「トラウマ体験を表現することは危険であり反治療的である」という視点の2つの方向性が存在する。この点に関してあなた自身の考え方を述べなさい。
[3]
posttraumatic growthについて説明しなさい。
(名古屋市立大学大学院 人間文化研究科 人間文化専攻)
[4]
PTSDとは何か。日本語に訳して、内容を具体的に説明しなさい。
(名古屋市立大学大学院 人間文化研究科 人間文化専攻)
解答
[1]
1、覚醒
2、回避
3、フラッシュバック
4、1ヶ月
[2]
(1)
PTSDを引き起こしうる経験として、戦争被害、災害、性的被害が極度のストレスのタイプとしてあげられる。その経験によって強い恐怖、無力感、戦慄を自覚することがPTSDの原因とされている。その人の生命や存在に強い衝撃をもたらす出来事を外傷性ストレッサーと呼び、その体験を外傷(トラウマ)体験と呼ぶ。
(2)
「再体験」「回避」「過覚醒」が主要な症状である。再体験とは、恐怖を与えた出来事を今まさに経験しているような感覚を持つことであり、フラッシュバック、悪夢といった形で現れる。回避とは、その出来事自体を抑圧的に思い出さなくなること、あるいはその出来事に関係する事象への接近を回避することである。過覚醒とは、過度の警戒反応や驚得反応、感情的な混乱や不眠など、心身が常に極度の緊張状態に置かれることである。
(3)
PTSDも不安障害の一種であり、治療においては薬物の使用や行動療法、認知行動療法、EMDRなどの効果が認められる。行動療法としてはエクスポージャーなどの技法が用いられるため、「直面化」が必要となる場合が多い。この場合、クライエントは恐怖を発生させる刺激に直面することにより、当時のような危険のないことを学習し、各症状を制御できるようになる。一方、恐怖の程度が著しい場合、トラウマに直面することなく、症状の緩和に焦点を当てる「安定化」が有効とされる。この場合、薬物による症状のコントロールに加え、ストレス免疫訓練など通じ、ストレスに対する対処法を学び、自ら症状をコントロールする技術を身につける。当然、「直面化」と「安定化」はどちらか一方が望ましいという結論はありえず、クライエントの症状や人格特性に合わせて選択すべきである。
[3]
心的外傷後の成長とは、トラウマ的な人生の出来事の後の正の人格変化を指す。外傷性の出来事を経験することは、特定の個人の人格に変革的な役割を果たすことができ、成長を促進することができる。たとえば、トラウマを経験した個人は、より大きな楽観主義、ポジティブな影響、ソーシャルサポートへの満足、およびソーシャルサポートリソースの数の増加を示すことが示されている。
[4]
心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、事故や震災といった強烈なトラウマ体験により、強い恐怖感、感覚の麻療やフラッシュバック、睡眠障害などの症状が1ヶ月以上続く状態をいう。症状となるポイントは、トラウマ体験を繰り返し思い出してしまう「外傷体験の反復想起(再体験)」、その結果として緊張状態が続く「過覚醒」、そして外傷体験を想起させる刺激からの「回避」、誰も信じられない、世界は危険だといった否定的な認知や、ポジティブ感情が経験されないという「感情と認知の否定的変化」の4つである。治療においては薬物の使用や行動療法、認知行動療法、EMDRなどの効果が認められる。