長期記憶(long-term memory)
ポイント
長期記憶
長期記憶は、理論上永久に貯蔵される容量無限の記憶貯蔵庫のことである。長期記憶に保持される情報の量には、ほとんど限界はないと考えられている。そして、 一度長期記憶に貯蔵された情報は、ほぼ半永久的に保持されると思われてる。 長期記憶では、保持される情報は主に意味的情報の形式で表される場合が多く、うまく整理された形で貯蔵されている。ここに保持されている情報は、普段は意識されることはなく、必要に応じて検索されて短期記憶に転送され、思い出されることになる。短期記憶の情報が精緻化リハーサルによって深く意味処理されることで、長期記憶へと移行する。
長期記憶は、保持する情報の内容によって、手続き的記憶と宣言的記憶に区分される。長期記憶は大きく分けて言語化可能な宣言的記憶と言語化が困難な動作の記憶である手続き記憶に分類される。
手続き的記憶には、自転車の乗り方などのような、何かを行う手続きに関する情報が保持される。それに対して、宣言的記憶には、言葉によって記述できる事実に関する情報が貯蔵される。宣言的記憶は、さらに、 「いつ」「どこで」という情報を伴う出来事に関する記憶であるエピソード記憶と、 一般的知識の記憶である意味記憶とに区分することができる。
スクワイアが宣言的記憶と非宣言的記憶の分類を行った。さらに、タルビングが宣言的記憶を意味記憶とエピソード記憶、非宣言的記憶を手続き記憶とプライミングに分類した。
エピソード記憶と意味記憶(episodic memory / semantic memory)
エピソード記憶は、「いつ」「どこで」という情報を伴う出来事に関する記憶である。つまり、時間的・空間的に特定可能な経験の記憶である。意味記憶は、一般的知識の記憶である。
顕在記憶と潜在記憶(explicit memory / implicit memory)
顕在記憶とは、意識的な想起を伴う記憶。意識的に思い出そうとして思い出す記憶。一方、潜在記憶は意識的な想起を伴わない記憶。思い出そうと意識していないにも関わらず思い出している記憶。例として、プライミングや手続き的記憶がある。プライミング効果とは、先行刺激が後続刺激の処理に無意識に促進効果を及ぼすこと。プライミングは潜在記憶の実験的証拠といえる。
回顧的記憶と展望的記憶
エピソード記憶の一種。
回顧的記憶は過去に起きたことを思い出すような記憶。展望的記憶は未来の予定に関する記憶。
確認問題
[1]
以下の①〜④に入る最も適切な言葉を答えなさい。 記憶は、その内容によって(①)記憶と、(2)記憶の2つに大別することができる。(①)記憶とは主に身体や技能に関する記憶であり、(2)記憶は、経験や出来事に関する(③)記憶と、知識や判断が関係する(④)記憶に分けることができる。
(関西大学大学院 心理学研究科 心理臨床専攻)
[2]
( )に当てはまる語を答えなさい。
タルヴィング(Tulving, E.)は、長期記憶を2つに区別することを提唱した。そのうち、(①)記憶は、自己の経験として思い出すことのできる個人的な記憶であり、(②)記憶は、言葉や世界についての一般的な知識の記憶意である。
(京都ノートルダム女子大学大学院 心理学研究科 臨床心理学専攻)
[3]
以下の文章を読み、( )内の1〜2に入る適切な単語を記入しなさい。 記憶には顕在記憶と(1)というものがある。(1)とは、単語完成課題に代表される(2)効果を検出する課題によって測定される。(2)効果とは、専攻刺激が後続のテストに促進効果を及ぼすことである。
(国際医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 臨床心理学専攻)
[4]
以下の文章内にある番号のついたカッコに入れるべき言葉を答えなさい。
あなたが他の学生を紹介され、彼女の名前がバーパラ・コーンであると言われたとしよう。その日の午後、あなたは再び彼女あって、「あなたはパーパラ・コーンですね。今朝お会いしましたね」という。明らかに、あなたは彼女の名前を覚えていた。あなたのちょっとした記憶の仕業は、3つの段階に分解できる。第一の段階は紹介を受けたとき、あなたは何とかしてバーバラ・コーンの名前を記憶しようとした。これが(1)段階である。あなたは、まさに口頭で発表された彼女の名前そのものである物理的入力(音波)を、記憶が受容できるような種類の表象に変換し、その上でその表象を記憶の中に位置付けた。第二に、あなたは二度の出会いの間中、その名前を保持した。これが(2)段階である。そして、第三に、あなたは二度目の出会いの時に、(2)したものの中から彼女の名前を再生した。これが(3)段階である。記憶の三つの段階は、すべての場面で同じように働くわけではない。およそ、数秒間、材料を(2)する場面と、数分から数年にわたって材料を(2)しなければならない場面では記憶は異なるようである。前者の場面は作業記憶に関係し、後者は(4)を反映すると言われている。作業記憶は、数秒間だけ情報を(2)する記憶である。私たちは作業記憶の容量を7±2(5)以上に増やすことはできない。しかしながら、私たちは一つの(5)のサイズを大きくすることによって記憶範囲に入る項目の数を増やすことができる。作業記憶を長期記憶に転送する一つの方法が、(6)である。(6)とは、作業記憶内の情報を意識的に反復することである。
(日本女子大学大学院 人間社会研究科 心理学専攻)
[5]
次の事項と関連の深い人名あるいは事項を選択しなさい。
・procedural memory
1、Ebbinghaus 2、Neisser 3、Tulving 4、Rosch
(名古屋市立大学大学院 人間文化研究科 人間文化専攻)
[6]
下記の用語について簡単に説明しなさい。
・long-term memory
(静岡大学大学院 人文社会科学研究科 臨床人間科学専攻)
[7]
次の記憶に関する説明のうち、誤っているものはどれか、もっとも適切なものを一つ選びなさい。
1.エピソード記憶は、時間、場所、感情が含まれる出来事に関する記憶である。
2.逆行性健忘は、最近の出来事を想起することができない。
3.潜在記憶は、抑圧されて想起されることのない記憶である。
4.短期記憶は、通常、数分程度を超えて保持されることはない。
(静岡大学大学院 人文社会科学研究科 臨床人間科学専攻)
[8]
下記の用語について簡単に説明しなさい。
・explicit memory / implicit memory
(北海道医療大学大学院 心理科学研究科 臨床心理学専攻)
[9]
下記の用語について簡単に説明しなさい。
・episodic memory / semantic memory
(大阪府立大学大学院 人間社会システム科学研究科 現代システム科学専攻 臨床心理学分野)
解答
[1]
1、手続き的(非宣言的)
2、宣言的
3、エピソード
4、意味
[2]
1、エピソード記憶
2、意味記憶
[3]
1、潜在効果
2、プライミング
[4]
1、符号化
2、貯蔵
3、検索
4、長期記憶
5、チャンク
6、リハーサル
[5]
3
[6]
長期記憶とは、理論上永久に貯蔵される容量無限の記憶のことである。 短期記憶の情報がリハーサルによって深く意味処理されることで、長期記憶へと移行する。
[7]
3
[8]
顕在記憶とは、意識的な想起を伴う記憶。意識的に思い出そうとして思い出す記憶。一方、潜在記憶は意識的な想起を伴わない記憶。思い出そうと意識していないにも関わらず思い出している記憶。例として、プライミングや手続き的記憶がある。プライミング効果とは、先行刺激が後続刺激の処理に無意識に促進効果を及ぼすこと。プライミングは潜在記憶の実験的証拠といえる。
[9]
どちらも長期記憶の宣言的記憶である。エピソード記憶は、「いつ」「どこで」という情報を伴う出来事に関する記憶である。つまり、時間的・空間的に特定可能な経験の記憶である。意味記憶は、一般的知識の記憶である。