ポイント
自己概念と自己経験が不一致の状態で、実現傾向が発己揮できていない。
実現傾向が発揮できるよう、自己概念と自己経験が一致した状態を目指す。
クライエント中心療法(client-centered therapy)は、ロジャース(Rogers、C.R.)によって創始された心理療法である。ロジャースはそれまでの心理療法がセラピストからクライエントへの指示的な関わりである点を批判し、クライエント自身が自ら成長する力を持っておりセラピストは許容的な雰囲気を作り、受容と感情の明確化を行うこと、かつ指示をしないことと主張した。このような彼のアプローチは非指示的療法(non-directive therapy)と呼ばれた。ロジャースの優れた点は、自らの心理療法を実証的に示す研究もおこなったことである。彼は自身のカウンセリングを録音し、その特徴を記述するという方法を行った最初の人物である。1950年以降は、クライエントの感情や態度の反映を重視していき、クライエントの人格の成長や変容を促進するものとしては援助者の技法よりも態度の方が重要であるとした。そして、1957年に 『治療的パーソナリティ変化の必要にして十分な条件』を発表した。その中にあるセラピストに必要な3つの態度(共感的理解・無条件の肯定的配慮・純粋性(自己一致))は、ロジャースの理論の中で最も重要である。この頃から、ロジャースは非指示的療法からクライエント中心療法と呼ぶようになった。1970年以降、ロジャースは個人療法から集団療法へと関心を移していき、エンカウンター・グループ(encounter group)に力を注ぐようになっていった。その中で彼の理論は、治療から日常における援助関係に注目するようになり、クライエント中心療法からパーソン・センタード・アプローチ(person-centered approach)と呼ぶようになっていった。
この二つの円は、自己概念(concept of self)と経験(experience)を表している。自己概念とは、個人の特性や関係についての定型化された知覚と、それに伴う価値を表すものである。自己概念は意識化することができる。経験とは、感覚様式を通して個人によってされた経験の直接の場を表す。
この二つの円が重なり合っており、3つの領域が作られる。重なり合っている一致領域は、自己編念と経験が一致している部分である。歪曲領域では、社会的もしくはその他の経験が象徴化されるにあたって歪曲され、その個人自身の経験の一部として知覚される現象の場の部分を表すものである。否認領域では、自己概念と経験が矛盾対立するために、意識することを否認されている部分となる。歪曲領域、否認領域は、有機体が重要な経験を意識することを拒否したり歪曲して意識したりするために、その経験は正確に象徴化されず、自己概念と経験の間に不一致を生ずる。この状態が心理的不適応の状態となる。ロジャースは有機体(人)には、有機体を維持し強化する方向に全能力を発展させようとする傾向(実現傾向:actualizing tendency)があると考えた。そして、自己概念と経験を一致させていこうとする自己実現傾向(tendency toward self-actualization)があると考えた。クライエント中心療法において、クライエントは自己実現傾向を発揮できず、自己の不一致(incongruence)の状態に陥っていると考えられている。そこでロジャースは、クライエントとセラピストが心理的に接触をもち、自己一致し続合されている状態にあるセラピストとの関係の中であれば、クライエントが自己実現傾向を発揮できるように変化していくと考えた。そして、クライエントが自己実現傾向を発揮するためには、以下のような「セラピーにおける治療的パーソナリティ変化の必要十分条件」が求められると、ロジャースは考えた。
確認問題
[1]
下記の用語を簡潔に説明しなさい。
・Rogers, Carl. R.
・来談者中心療法
(静岡大学大学院 人文社会科学研究科 臨床人間科学専攻)
解答
[1]
Rogers, Carl. R.は、アメリカの心理学者で、来談者中心療法を創始した。 来談者中心療法は、自己概念と自己経験が不一致の状態で、実現傾向が発揮できていないと考える。そのため、来談者中心療法では、実現傾向が発揮できるよう、自己概念と自己経験が一致した状態を目指す