人の発達と初期経験
1 初期経験
発達に大きな影響を及ぼす出生直後の特殊な経験を
指して初期経験と呼びます。
初期学習、初期刺激づけともいわれます。
発達する有機体にとって、
発達のごく初期に与えられる刺激 (経験) をいう。
この初期の刺激づけが、
のちになって現れる発達に重大な影響をもつことが、
最近明らかになりました。
新生児期の大脳はまだかなり未熟ですが、
初期の刺激づけを通して大脳が成熟を進め、
精神機能の発達がもたらされます。
ある適当な時期までに適切な刺激が与えられないと、
その後になって発現すべき発達が現れなかったり、
不十分であったり、
ゆがんだ形になるおそれがあります。
2 臨界期
初期経験が成立する出生直後のごくわずかな時期のことを、
臨界期と呼びます。
刺激づけの最適期である臨界期、
その時期を過ぎると効果は生じにくくなってしまいます。
最も有名なものは、
ローレンツによる刻印づけの研究です。
刻印づけとは
カモやアヒルが孵化してすぐに
目にした動く対象の後を追っていくことで、
孵化直後の36時間前後しか
起こらないといわれています。
つまりこの場合、
臨界期は孵化直後の36時間前後ということになります。
3 可塑性
可塑性は変化のしやすさと言い換えられます。
粘土をイメージしてみてください。
粘土が柔らかいうちは、さまざまな形に変わります。
これは可塑性が高い状態です。
対して時間が経過し、
硬くなった粘土は形を変えることが難しいですね。
これは可塑性が低い状態といえます。
人間の発達で考えると、
たとえば、
幼い頃はさまざまな言語を習得することが可能ですが、
年を重ねるごとに難しくなります。
この時、幼い頃は言語習得に関する可塑性が高く、
加齢とともに可塑性が低くなる
と表現できます。
初期経験で獲得したものは明らかに可塑性が低く、
いったん成立した学習は、成長後も継続します。
しかし、人間などの哺乳類は臨界期が明確ではなく、
他の動物と比較して学習の可塑性が高いと言われています。
出生直後の方が、
学習が成立しやすいことには変わりありませんが、
出生間もない特定の時期を逃しても
学習が成立する可能性があることから、
哺乳類の場合は臨界期とよばず
敏感期とよんで区別することが多いです。
4 人の発達において初期経験が及ぼす影響
4−1 アラマとカマラ
狼に育てられた少女「アマラとカマラ」の話をご存知でしょうか。
アマラとカマラは発見された時、8歳と1歳半でありましたが、
言語の使用や二足歩行など、
人間としての発達に必要な初期学習がなされていないため、
いくら教育を受けても人間らしい行動をとることが困難でした。
ただし、アマラとカマラの話は証拠が少なく、
信憑性に乏しいという指摘も多くあります。
アマラとカマラの話に限らず、
正常な感覚や社会性の獲得のためには、
生後の限られた臨界期に正常な刺激が与えられる必要があり、
成熟してから与えられたのでは、
正常な感覚や社会性の獲得が困難になることが示されています。
4−2 幼児期の成長と初期経験
幼児は歩行が自由になって、
身近な生活の場から始まって活発な環境探索活動、
対象操作の経験をものにして、
知的好奇心を満たし、更に刺激されて、
認識世界を拡げていく。
しかし、いたずらの盛んな時期に、
つねに行動を制限され、
単調な生活のくり返しの中で、
受け身の刺激受容に限定されてすごしてしまうと、
初期に動作を通した認識経験の機会を剥奪されてしまう。
その場合、
幼児後期の治療・教育的とりくみの努力が行われたとしても、
発達の全面にわたる著しい遅滞及び不均衡が、
加齢とともにより明確になってしまうときがある。
幼児期には
単に受動的に刺激にさらされるだけではなく、
積極的に外界を注視したり、
探索したりという
正常な経験、
つまり
能動的ふれ合いが必要である。
<参考文献>
https://opac-ir.lib.osaka-kyoiku.ac.jp/webopac/KJ4_2200_157._?key=BLHDBX
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