ポイント
研究の倫理
○倫理委員会の認可(おもに研究方法の人権的配慮の客観的審査)
研究実施前に研究計画書を所属機関の倫理委員会に諮り、許可を得ることが必要である。
倫理委員会が審査するのは、その計画に基づく研究手続きが研究対象者の心身の苦痛を生み出さないかどうか、人権に対する配慮がなされているかどうか、などである。
倫理観は人それぞれであるため、研究者自身が大丈夫だと考える計画でも、他の人の視点から見ると、望ましくない点が見えてくる可能性がある。独善が危険なのである。
○研究目的や結果の開示
第一義的にはインフォームド・コンセントである。研究手続きの開始前に、研究の目的や得られた情報の使用目的、研究発表の方法などについて開示し、研究対象者の自由意思に基づいて、研究に参加することに同意を求める。
これについては、文章での同意(つまり署名など)を得ることが基本となる。ただし、研究目的を伏せないと自然な反応が得られなくなる研究の場合、ディセプション(虚偽の実験目的の提示)が行われる場合がある。この場合には、事後に研究目的などの説明(デブリーフィング)を行い、了承を得ることもある。この場合も文章での同意が基本。
ただし、幼児など本人の納得の上での同意を得ることが難しい対象者の場合、保護者などからの同意を得ることになる。
○個人情報の収集と保護(プライバシー)
研究によって得られた個人情報は厳重に管理し、目的外の使用は一切しないことが求められる。
研究発表の際にも、基本的には個人が特定されるよう状態での発表は行わず、発表内容によって研究対象者が不利益を被ることがないように配慮しなければならない。
インフォームド・コンセント(informed consent)
インフォームド・コンセントは、クライエントに対してどんな目的でどんな心理検査を行うかを説明し、クライエントの同意をもらうことである。また、研究手続き開始前に、研究の目的や情報の使用目的などについて実験参加者へ開示して、自由意志に基づいて、研究に参加することへの同意を求める。
心理アセスメントを行うことは、クライエントにとって不安を与えることにもなる。そのため、何の目的でどのような心理テストを行うのかなどを事前にクライエントに伝え、安心して心理テストを受けることができるように充分な説明を行い、その行為について同意を得ていなくてはならない。
確認問題
[1]
括弧にあてはまる適切な語を答えなさい。
(1)とは、心理アセスメントのために心理検査を行う際、クライエントに対してどんな目的でどんな心理検査を行うかを説明し、クライエントの同意をもらうこと。また、人間を対象とする実証研究を実施する際に、事前に協力者に研究内容や予想されるリスクなどを説明し、いつでも参加を取りやめる自由があることなどを伝え、同意を得るという倫理的配慮のことである。
(目白大学大学院 心理学研究科 臨床心理学専攻)
[2]
心理学の研究において、心得ておくべき倫理的配慮について、いくつか具体例をあげて説明しなさい。
(静岡大学大学院 人文社会科学研究科 臨床人間科学専攻)
[3]
臨床現場で特定の技法を用いた心理療法を開始する際、検討・配慮すべき事柄について、2つ以上の視点から述べなさい。
(静岡大学大学院 人文社会科学研究科 臨床人間科学専攻)
解答
[1]
[2]
心理学の研究において、心得ておくべき倫理的配慮は、倫理委員会の認可、インフォームドコンセントを得ること、個人情報の保護などがある。一つ目に、研究を行う前に、人権的配慮がなされている研究かどうかを客観的に審査してもらうため、倫理委員会に研究計画書を提出する。二つ目に、研究手続き開始前に、研究の目的や情報の使用目的などについて実験参加者へ開示して、自由意志に基づいて、研究に参加することへの同意を求める。三つ目に、研究によって得られた個人情報は厳重に管理して、目的以外に使用しないことが求められる。
[3]
臨床現場で特定の技法を用いた心理療法を開始する前に、検討・配慮すべき事柄として以下の2つの視点を述べる。
1つめは、実施しようとしている心理療法の技法がクライエントの疾病の治療に適しているのか、クライエントのパーソナリティの部分を含めて検討することである。これには、面接や心理検査によるアセスメントを行うことが考えられる。
2つめは心理療法を実施する際、行う心理療法の情報をクライエントが十分に理解できるまで説明し、自由意志の元で、インフォームドコンセントを得ることである。何の目的でどのような心理療法を行うのか、そのような効果が得られるかなどを事前にクライエントに伝え、納得した状態でを受けることができるように充分な説明を行い、同意を得ていなくてはならない。