ポイント
ウェクスラー式知能検査
ウェクスラー式知能検査はニューヨークのベルヴュー病院のウェクスラー(Wechsler, D.)によって開発された知的能力別の診断を目的とした知能検査である。ビネーが知能を1つの一般知能と考えたのに対して、ウェクスラーは知能の多因子構造を仮定している。
WISC
WISC-Ⅲ
13個の下位検査は、6個の言語性検査(知識・類似・単語・理解・算数・数唱※)と7個の動作性検査(絵画完成・絵画配列・積木模様・組合せ・符号・記号探し※・迷路※)に分類される。※の3個は補助検査である。下位検査はさらに、言語理解、知覚統合、注意記憶、処理速度の4つの群指数に分類される。
WISC-Ⅲにおける、群指数の種類および下位検査の内容
<解釈するIQ>
全検査IQ
言語性IQ
動作性IQ
<群指数>
[言語性検査]
言語理解:知識、類似、単語、理解
注意記憶:算数、数唱
[動作性検査]
知覚統合:絵画完成、絵図配列、積み木模様、組み合わせ
処理速度:符号、記号探し
WISC-Ⅳ
WISC-IVでは、言語性検査(言語性IQ)・動作性検査(動作性IQ)という分類が廃止され、10種の基本検査と5種の補助検査からなる15種の下位検査(積木模様・類似・数唱・絵の概念・符号・単語・語音整列・行列推理・理解・記号探し・※絵の完成・※絵の抹消・※知識・※算数・※語の推理)を用いて、4つの「指標得点(言語理解・知覚推理・ワーキングメモリー・処理速度)」を算出するように変更された。従来の言語性・動作性という区分は、検査得点の因子分析の結果にフイットせず、妥当性が低いことが明らかとなった。そのため、最新の知能研究や脳科学研究の成果を踏まえ、下位検査の内容を大幅に改訂し、新たに指標得点を導入した。さらに、群指数から指標へ変更され、指標のうち知覚統合が知覚推理に変更された。
WISC-Ⅳにおける、指標得点の種類および下位検査の内容
<解釈するIQ>
全検査IQ
<指標得点>
①言語理解(VCI):類似、単語、理解
②知覚推理(PRI):積み木模様、絵の概念、行列推理
③ワーキングメモリー(WMI):数唱、語音整列
④処理速度(PSI):符号、記号探し
WAIS
WAIS-Ⅲ
WAIS-Ⅲでは、言語性検査(一般的知識、一般的理解、算数問題、類似問題、数唱問題、単語問題、語音整列)・動作性検査(絵画完成、絵画配列、積み木問題、符号問題、組合せ問題、行列推理、記号探し)によって構成されている。 全体の点数から「全体IQ」を算出でき、言語性・動作性それぞれの合計点から「言語性IQ」「動作性IQ」を算出できる。さらに、下位検査を4つのカテゴリに分類し、各カテゴリごとの点数をもとに「群指数」を求めることも可能である。言語性検査と動作性検査のIQ間、あるいは群指数間に顕著な差が生じる現象を「ディスクレパンシー」と呼び、発達障害などにおいて顕著に見られる。群指数は、言語理解、知覚統合、作動記憶、処理速度から構成される。
WAIS-Ⅳ
WAIS-Ⅳでは、言語性検査(言語性IQ)・動作性検査(動作性IQ)という分類が廃止され、10種の基本検査と5種の補助検査からなる15種の下位検査(積木模様・類似・数唱・行列推理・単語・算数・記号探し・パズル・知識・符号・※語音整列・※バランス・※理解・※絵の抹消・※絵の完成)を用いて、4つの「指標得点(言語理解・知覚推理・ワーキングメモリー・処理速度)」を算出するように変更された。
対象年齢
WAIS / WISC/ WPPSI
現在は、対象年齢によってWAIS、WISC、WPPSIの3種類が作成されている。
・WPPSI(Wechsler Preschool and Primary Scale of Intelligence):対象年齢3歳10か月〜7歳1か月。現在、日本でもWPPSI-Ⅲの標準化作業が進められている。
・WISC(Wechsler Intelligence Scale for Children):対象年齢5〜16歳。現在日本で使われているのは2011年の日本語4訂版で、WISC-Ⅳ
・WAIS(Wechsler Adult Intelligence Scale):対象年齢16〜89歳の成人。現在日本で使われているのは2006年の日本語3訂版で、WAIS-Ⅳ
偏差知能指数(DIQ)
検査結果であるIQは「偏差知能指数(DIQ)」である。 ウェクスラー式検査は、事前に年齢ごとの平均点と標準偏差が調べれている。ウェクスラー式検査における「標準化」とはこのような年齢ごとの平均点・標準偏差を調査する手続きのことである。 DIQは標準化によって得られた平均点と標準偏差を用いて算出される。計算における考え方としては、同年齢の平均をDIQ100とし、平均らのズレの指標である標準偏差が一つ分の大きさをDIQ15として換算する。計算式は以下のとおりである。
偏差IQ(知能指数)をX-M /(SD/15)+100(X:個人の得点、M:所属集団の平均値、SD:所属集団の標準偏差)
確認問題
[1]
括弧に入る最も適切な語句を答えなさい
ウェクスラー式知能検査で動作性IQと言語性IQ間などの大きな差を(1)という。
(帝塚山学院大学院 人間科学研究科 臨床心理専攻)
[2]
括弧に入る最も適切な語句を答えなさい
WISC-Ⅳでは、WISC-Ⅲまで使用されてきた(1)と(2)の指標がなくなり、全検査IQと言語理解、処理速度、(3)、(4)の4つの指標得点で示される。
(法政大学大学院 人間社会研究科 臨床心理学専攻)
[3]
次の文の空欄に最も適切な語を解答欄に記入しなさい。
WAIS-Ⅲは、言語性IQ・動作性IQ・全検査IQと言語理解・知覚統合・作業記憶・処理速度の4つの(1)が得られる。
(帝塚山学院大学院 人間科学研究科 臨床心理専攻 改題)
[4]
ビネー式知能検査とウェクスラー式知能検査について、両者を比較しながらそれぞれの特徴を説明しなさい。また、それらの特徴を踏まえたうえで、臨床心理学的授助に適用する際の留意点について述べなさい。
(昭和女子大学大学院 生活機構研究科 心理学専攻 臨床心理学講座)
[5]
WISC-ⅢとWISC-IVの最も特徴的な違いについて簡潔に述べなさい。
(名古屋市立大学大学院 人間文化研究科 人間文化専攻)
解答
[1]
ディスクレパンシー
[2]
1、言語性IQ
2、動作性IQ
3、知覚推理
4、ワーキングメモリー
[3]
群指数
[4]
ビネー式知能検査では、知能を1つの一般知能と仮定し測定する。テスト問題が難易度順に配列されており、何歳レベルの問題まで正解できたかで精神年齢を算出し、知能指数を算出する。年齢集団に対して知能が高いか低いかという相対評価が可能となるため、知的障害の診断と指導に役立てることができ、特別な支援が必要な子どもたち早期に発見し、最も適切な教育指導を作り出すことが可能となる。一方、ウェクスラー式知能検査は、知能の多因子構造を仮定している。そして、個人内の各知能を測定し、得意不得意とする知的領域の個人内の差を明らかにできる。そのため、限局性学習障害などの診断的知能検査として使用されることがある。
ビネー式知能検査やウェクスラー知能検査を実施する段階での留意点として、クライエントの負担を配慮することが挙げられる。どちらのテストも所要時間が長いため、クライエントの負担は大きいと考える。特にクライエントが子どもの場合は集中力が途中でなくなることも予想される。クライエントの状況に応じて、実施を2回に分けるなどの配慮が必要になることもあるだろう。また、上記知能テストで測定した結果は、あくまでもテスト環境での結果であることにも留意する必要がある。実際の日常生活とは異なる環境でのテストの成績であるため、普段の実力とはまた異なることもあるだろう。そのため、知能検査の結果だけでクライエントの援助の方針を決定するのではなく、必要に応じて他のテストとバッテリーを組んだり、行動観察や親からの聞き取りをするなど、情報を多角的に収集し、クライエントの今後の臨床心理学的援助に適用するべきである。
[5]
WISC-IVでは、言語性検査(言語性IQ)・動作性検査(動作性IQ)という分類が廃止され、15種の下位検査(基本検査:10、補助検査:5)を用いて、4つの「指標得点」を算出するように変更された。従来の言語性・動作性という区分は、検査得点の因子分析の結果にフィットせず、妥当性が低いことが明らかとなった。そのため、最新の知能研究や脳科学研究の成果を踏まえ、下位検査の内容を大幅に改訂し、新たに指標得点を導入した。さらに、群指数から指標へ変更され、指標のうち知覚統合が知覚推理に変更された。