ポイント
遊戯療法とは主に幼児や児童を対象に、遊びを介して行う心理療法の総称である。子どもはまだ言語表現が未熟なため、言葉にかわるツールとして「遊び」を利用して、心的世界を表現する。
遊びまたは遊戯療法の心理的効用
①自己表現ができる
言語能力がまだ発達途上の子どもにとって、遊びを媒介として自己を表現することができる。
②カタルシス効果
遊びに夢中になることで、言葉で表現できないストレスやネガティブな感情を発散することができる。
③感情調節・社会適応の仕方を学習する
仲間とのおもちゃのやりとりや共同遊びを通して、また、遊戯療法においては制限のある中で遊ぶことを通して、現実場面における適応的な対処の仕方や感情調節を学習することができる。
アクスライン(Axline , V.M.)の8原則
ロジャーズ派の遊戯療法を行ったアクスラインは、遊戯療法における8原則を提唱した。これは学派を超えて遊戯療法を行う際の原則として尊重されている。
1.よい治療関係を成立させる(=ラボール形成)
2.あるがままの受容をおこなう
3.受容的雰囲気をつくる
4.適切な情緒的反射をおこなう
5.子どもに自信と責任を持たせる
6.非指示的態度をとる
7.ゆっくり進む過程であるため、進行を急がない
8.必要な制限を与える。
遊戯療法の枠組み(治療構造)
①時間は1回50分前後、週1回〜月に1回ぐらいの顔度
②場所は一定の広さや防音性があり寝転がったりできるプレイルームが適している
③備品として遊びを展開するのに役立つ玩具を準備する
④担当者を固定する
→このような枠組みを設定することは子どもを守る機能を持っている。枠組みがあることで、子どもは安心して遊びの中で自己を表現することができ、そして自分の間題を見つめなおし問題を乗り越えていくことができる。
遊戯療法における制限
遊戯療法における制限には以下のものがある。
①自分自身の健康を損なう行動の制限(泥水を飲むなど)
②セラビストに対する身体的攻撃の制限
③ブレイルームの備品などの破壊の制限の時間、場所などの制限
→このような制限を設けることで以下のメリットがある。
①子どもおよびセラピストの身体的安全の確保できる。
②子どもに罪悪感を抱かせない。
③制限がある中で遊戯療法を行うことで、現実での問題解決方法を学習することができる。
遊びが治療に行かされる意義
遊びが治療として活用されることの意義には大きくわけて2つある。1つ目は、遊びを通して子どもが思う存分自己表現ができるという点である。特に言語で表現することが未熟である子どもにとって遊びの中で自己を表現することは、カタルシス効果をもたらし、不安や不満、ストレスを発散することが可能にある。2つ目は自己の感情調節や自己コントロールや適応能力といった、社会において必要とされるスキルを並びを通して訓練できるということである。子どもは治療者や他の子どもといった他者と遊ぶ中で、適り切なソーシャル・スキルを学ぶことができる。このように、遊びの意義には、自己表現によってカタルシス効果が得られる点と、社会的に必要な様々なスキルや能力を獲得できるという点に意義がある。
アンナフロイトークライン論争
子どもに対する遊戯療法に関しては、遊戯療法で見られる象徴的表現を解釈可能か否かという問いがアンナフロイトークライン論争で大きく取り上げられた。クラインは、子どもであっても陰性転移を起こしやすいので、象徴表現の解釈はおこなうべきという主張であったが、アンナ・フロイトは、まだ子どもには陰性転移を起こすほど成熟していないという考えのもと象徴表現の解釈を行うよりも、保護者や教師といった子どもの周りの環境の改善を図るべきであると考えた。またロジャーズ派のアクスラインが提唱した遊戯療法におけるアクスラインの8原則がある。これは、学派を問わず、子どもの遊戯療法を行う心理士にとっての基本原則となっている。
cf.
芸術療法
確認問題
[1]
下記のaからeの文の内容について、正しければ○を、間違っていれば×を解答欄に記入しなさい。
い。
a 遊戯療法は、象徴化能力が発達していない子どもも対象になる。
b プレイルームの玩具の種類は、子どもの発達段階によって標準化されている。
c 箱庭療法でマンダラ的な作品の創作を転機として、症状が好転することもあれは、悪化することもある。
d 親子並行面接の場合、子どもの遊戯療法が終結になれば、親面接も終結となる。
e プレイルームの中で子どもがセラピストを攻撃するのは、子どもの病理が重いことを示すサインである。
(帝塚山学院大学大学院 人間科学研究科 臨床心理学専攻)
[2]
ウィニコットは、生後数週間は育児に没頭して乳児の必要を感じ取りそれに応えて、幼児の能力が身につくにつれて徐々に手を引いていくことができる母性的な関わりを(1)と呼んだ。
(東京成徳大学大学院 心理学研究科 臨床心理学専攻)
[3]
心理療法に関して、間違っているものを一つ選びなさい。
1、ロジャーズは、心理相談の対象者を患者(patient)ではなく、クライエント(来談者:client)とし、カウンセラーとの人間的な関わりによってクライエント自らが問題解決を見出すことを治療目標とした。
2、アクスラインは、「子どもの心理療法の8原則」の中で、許容的雰囲気づくりだけでなく、制限の設定を示した。
3、ベックは、認知(ものごとの捉え方)は修正可能であり、それにより感情が改善することを治療目標とした。
4、ヤーロンは、「グループ療法における治療的11因子」として、愛他主義、模倣行動、対人学習などを示した。
5、フロイトは、心の構造には意識できるもの以外に無意識が存在するとし、無意識をできるだけ抑圧することを治療目標とした。
(帝京平成大学大学院 臨床心理学研究科 臨床心理学専攻)
[4]
括弧に入る最も適切な語句を答えなさい。
精神分析の系譜の中で、( 1 )とアンナ・フロイト(Anna Freud)は、それぞれ子どもの治療法としての遊戯療法を発展させたのに対して、オハイオ州立大学でC.R.ロジャーズに師事した( 2 )は、子どもの成長力を強調した( 3 )を発展させた、彼女の「遊戯療法の8原則」は日本でもよく知られている。
(法政大学大学院 人間社会研究科 臨床心理学専攻)
解答
[1]
○
×
○
×
×
[2]
1、ほどよい母親
[3]
5
[4]
1、メラニー・クライン
2、アクスライン
3、非指示的遊戯療法