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エリクソン(Erik Homburger Erikson)の漸成発達理論(epigenesis)

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ポイント

 

エリクソンの心理・社会的発達段階

 

発達段階:年齢:発達課題:対:心理社会的危機

 

乳児期:0~1歳6ヶ月:基本的信頼:対:不信 (Trust vs. Mistrust) 徳:希望

comment:乳児は自分の欲求が外界から,とくに母親によってどのように満たされるか,または満たされないかによって,信不信を学習する。

・親子関係において、親が自分に乳房を与えてくれるならば、他者は信頼できるし、他者に養育してもらえる自分の存在の価値を認めることができるという「基本的信頼 」が自我の特性として備わるが、適切な授乳が行われないならば、他者を信頼できず、養育されない自分の存在価値を疑う「基本的不信」が自我の特性となってしまう。

 

 

幼児前期:1歳6ヶ月〜3歳:自立性:対:恥,疑惑(Autonomy Vs. Shame and. Doubt.) 徳:意思

comment:子どもは自分の意志の行使,選択の仕方,自己制御の仕方を学習するか,あるいは自分で何ができるかについて不安を持つか疑問を抱くようになるかを学習する。 

・トイレットトレーニングが適切に行われたならば、自分のことは自分でコントロールできる自主的な人間としての「自律性」が自我の特性として備わるが、適切なトイレットトレーニングが行われず、親が厳しすぎたり甘すぎたりする場合、自分のことを自分でコントロールできる感覚が持てず、自分の能力に対する羞恥や疑惑である「恥・疑惑」が自我の特性となってしまう。

 

幼児後期:4-6歳:主導性(自主性・自発性):対:罪悪感 (Initiative vs. Guilt) 徳:目的

comment:子どもは自分で活動を開始し,やリ遂げることを学習し,行為に方向性や目的を持たせることを学習する。主導性を発揮することが許されないと, 自力でいろいろな試みをすることに罪障感を抱く。

エディプス・コンプレックスエレクトラ・コンプレックスを乗り越えることにより、親を自己のモデルとして同一視するため、親と同じように積極的に社会参加しようとする「積極性」が自我の特性として備わるが、エディプス・コンプレックスエレクトラ・コンプレックスを乗り越えられないと、去勢不安や対象喪失に基づく罪の意識が強くなり、自分の考えや行動は罪であると感じる「罪悪感」が自我の特性となってしまう。

 

学童期:6歳-思春期(12歳):勤勉性:対:劣等感(Industry vs. Inferiority) 徳:有能感

comment:子どもは勤勉性の意識と好奇心を発達させ, 学ぶことに熱心になる。でなければ,劣等感を持ち、自分の前にある課題にも興味を示さなくなる。

・性的欲求の抑圧によりリビドーが昇華されて、エネルギーは生産的活動に向かう。その生産的活動に成功し、他者からの評価が得られた場合、有能感や自尊心を含む生産の喜びである「勤勉性 」が自我の特性として備わるが、生産的活動がうまく行かず、有能感、自尊心をもてないと、生産の喜びを感じられない「劣等感」が自我の特性となってしまう。

 

青年期(12〜18歳):同一性:対:役割(同一性)の拡散 (Identity vs. Role Confusion) 徳:忠誠心

comment:青年は自分の中に一定の思想を持った独目的で統一のとれた人間の姿を求める。そうでなければ,自分の生活に何を求めるのかの点で混乱した状態に陥る。

エリクソンは、青年期の姿として“モラトリアム”の概念をあげている。・モラトリアムとは経済用語の「債務猶予期間」のことだが、エリクソンはその言葉を引用し、身体的・心理的におとなに近いがまだおとなではない青年期を、社会がシステムとして青年に与えている社会的猶予期間が「モラトリアム」であり、社会的な責任や義務はある程度免除されていると考えた。

・具体的には、「青年」には社会的義務(納税、勤労など)は免除される一方、親から自立した社会参加が一定レベルで認められ、アルバイトやボランティア、特定のスポーツや勉学への没頭など、自己の将来につながるような活動が奨励されている。

・この期間に、青年はさまざまな関心分野を試したり、職業を経験したりするなどの試行錯誤を通じ、自分の独自性を理解し、今後の人生において関与すべきものを見出すこと(すなわちアイデンティティの確立)が求められる。

 

成人期初期(18~35歳):親密性:対:孤立( Intimacy vs. Isolation) 徳:愛

comment:自分を自分以外の人と関わらせることができるようになる。でなければ,孤立感を深め, この世には自分以外には何物も存在しないというような感じを抱くようになる。

・急激に高まるリビドーにより、特定の他者(基本的には異性)との関係を強く求めることになる。この時、前段階で自我同一性が確立している場合は、他者との関係において相互の同一性を尊重し、心身ともに深い融合一体感を感じられる「親密性」が自我の特性として備わるが、自我同一性が確立していない場合、他者に自我を脅かされる脅威を感じ、一対一の関係を避けようとする 「孤立」が自我の特性となってしまう。

 

中年期・成人期後期・壮年期(35~50歳):生産性:対:停滞(Generativity vs. Stagnation) 徳:世話

comment:子どもを持ち世話することや,仕事や共通の善のために尽くすことに意欲を示す。それとも,自己中心的で,非活動的な人間になる。

・自身が“親”の世代となり、新しい世代を生み育てることに強い関心が向き、結婚および生殖を求める。また、育てる対象は自分の子どもに限らず、部下や後輩など、次の世代の向上に喜びを見出す「生殖性」が自我の特性として備わる。しかし生殖や次世代の育成に失敗すると、強迫的に親密性を求めるなどの退行が生じ、自分のことしか考えられなくなる「停滞性」が自我の特性となってしまう。

 

老年期(51歳〜):十全性(統合性):対:失望(絶望)(Ego Integrity vs. Despair) 徳:知恵

comment:自分の人生が有意味であったと確信し,静かな気持ちで死を迎えられる心境になる反省の時期。でなければ,目的を果たさなかったことや失敗,無為な人生を悔いる失望の時期。

・人生の終盤に差しかかり、それまで担ってきた自分の社会的役割を手放すことが多くなる時期であり、それまでのライフサイクルを振り返ることになる。そのとき、自らの生涯を肯定的に評価し、他の誰とも違う独自の人生を全うしてきたと感じられるならば、「統合」が自我の特性として備わる。しかし自己のライフサイクルに価値を見出せない場合、やり直しのきかない年齢であることに気付き、挫折感を持つ「絶望」が自我の特性となってしまう。

 

EriksonとFreudの発達論の比較  

 EriksonはFreudが提唱している各発達段階である口唇期、肛門期、男根期、潜伏期、性器期で、子供に与えられる課題について、新しい、幅広い見解をとった。そのためEriksonの理論ではそれぞれの時期を乳児期、幼児期前期、幼児期後期、学童期、青年期と表記されることが多い。さらに、3つの新しい段階(成人期、中年期、老年期)も付け加えており、従ってEriksonの発達論では人間の全生涯にわたって論じられている。  Freudは、身体部位を中心に置く、精神性的発達段階の継起を想定した。子どもが成熟するに従い、彼らの性的関心は口唇部位から肛門部位、さら男根部位へと移って行く。そして、潜在期の後になると、性的関心は再び性器部位に向けられるようになる。  しかし、Freudの身体部位に焦点を絞った理論には限界があった。 もちろんFreudは身体部位に述べるだけにとどまっていない。子どもとその成長に影響を与える人々との間における、重要な相互作用についても論じている。Freudが述べている各々の発達段階において、 Eriksonは、子どもが社会的な環境の中で経験する、最も決定的で一般的な事実について理解できるような概念を導入している。

 

青年期の問題  

 ◻︎集団同一性  

 青年の友人サークル、興味、服装スタイルは、近隣や学校において持続的で有意味な下位集団との結びつきを強化する。こうした集団の規範にしたがい、集団成員にコミットし、忠誠を誓う。仲間集団の成員性はもっとも重要な関心事であるが、集団同一性についての問題も生じる。家族や親類との結びつきを再評価し、隣属をもとめる過程で、青年は個人的欲求や価値とその環境における関連した社会集団によってもたれている価値とのあいだに、一致点や一致しない点に直面させられる。同一視している重要な集団との関係で、自己評価をするようになる。社会的是認や所属にたいする個人的欲求、リーダーシップや権力に対する個人的欲求、地位や評判にたいする個人的欲求が、青年前期の集団同一視の過程において表現される。 “集団同一性vs.疎外”という葛藤の肯定的な解決は、青年に対して、社会的欲求を満たし、集団への帰属意識をもたらす集団を現実的に認識させる。青年前期において、家族との関係、集団への所属および集団との関係は、個人の心理的成長を促進する。

 

 ◻︎個人的同一性  

 青年はアイデンティティとして、自分自身のなかの持続的な同一感と、他者とある種の本質的な特性を持続的に共有しているということを結びつける。  アイデンティティ形成では自己の統合に加えて、青年が生活している国や地域の文化的価値の内在化を必要とする。  また社会からは、仕事をし、結婚し、国につくし、選挙で投票するといったことが期待される。  文化的・社会的な期待や要求があるなか、自分自身の中の持続的な同一感を確立し、個人の準拠集団の価値志向をある程度反映した判断ができるようになる。  外的な要求よるアイデンティティ形成への圧力が存在している。  人は、これらの社会的期待に自分自身を同一視させることなく、さらに自分の個人的な目標を同一視させることなしに、自分に期待されている役割のなかに簡単にはまりこんでしまうかもしれない。これは早期閉鎖的同一性とよばれる。  また、文化的期待や要求が、若者にその社会の文化的価値とまったく矛盾するはっきりした自己像をもたらす場合がある。これは否定的同一性とよばれる。  早期閉鎖的同一性や否定的同一性は、ともに肯定的な個人的同一性という目標に達せないが、しかし、具体的なアイデンティティを与えてくれる同一性危機の解決例といえる。  また、自分の演じているさまざまな役割を統合することのできず、意味のある決定をする能力があるだろうという自信を持つことのない状態を役割混乱という。  個人的同一性が発達する過程で、人は必ず一時的な混乱や失望を体験する。ある程度の役割混乱の結果、アイデンティティの形成がなされる。  しかし、これらの経過を経て、アイデンティティの確立ができないと、役割拡散となる。そうなると、「自分が何をやりたいのか、今何をすべきなのか」にたいして明確な答えがだせなくなり、仕事や学問などへの興味が薄くなり、社会環境に適応できなくなる。

 

 

確認問題

[1]

( 1 )の提唱する漸成発達(epigenesis)は、( 2 )が心理-性的発達の到達点とした性器期に止まらず、人間の生から死に至る一生を通じて生起する発達として描き出している。この人間の一生を彼は、( 3 )と呼び、8つの時期を区別して記述している。

(法政大学大学院 人間社会研究科 臨床心理学専攻)

 

[2]

括弧に入る適切な語を答えなさい。

エリック・エリクソンの人格発達論は、( 1 )のリビドー発達理論を下敷きにしてはいるが、その性的性質は薄れて、養育者や家族・社会との相互作用の中で自我が発達すると捉え、さらに、青年期以降の人生の後半までを視野に入れたもので、( 2 )サイクルを8段階に分けている。第1段階(乳児期)の発達課題は、母親的人物との間の基本的( 3 )の獲得、第5段階(青年期)の発達課題は、( 4 )の達成である。その後も、パートナーとの間の( 5 )の達成などを経て、最後の老年期では人生の統合がもたらされる、とされている。

神奈川大学大学院 人間科学研究科 人間科学専攻 臨床心理学研究領域)
 

[3]

括弧に入る最も適切な語句を答えなさい。

( 1 )とは、自分は何者であり、何をなすべきかという個人の心の中に保持される概念のことであり、( 2 )によって提案された。その獲得の反対の状態としては、その( 3 )や排除性が挙げられる。それを獲得するために社会的な義務や責任を猶予されている準備期間を( 4 )と言う。

(法政大学大学院 人間社会研究科 臨床心理学専攻)
 

[4]

エリクソン(Erikson、E. H.)の心理社会的発達の段階は8つに分けられる。そのうち下記の5項目を発達の段階に沿って正しく並ベ変えなさい。
1自主性一罪悪感
2自己同一性一役割混乱
3自律性一恥・疑い
4勤勉性一劣等感
5基本的信頼一不信

 (目白大学大学院 心理学研究科 臨床心理学専攻)

 

[5]

下記の用語について簡潔に説明しなさい。

・integrity vs. despair

静岡大学大学院 人文社会科学研究科 臨床人間科学専攻)

 

[6]

E.H.Eriksonのライフサイクルについて、最も適切なものを1つ選べ。
① 人の生涯を6つの発達段階からなると考えた。
② 成人期前期を様々な選択の迷いが生じるモラトリアムの時期であると仮定した。
③ 青年期を通じて忠誠<fidelity>という人としての強さ又は徳が獲得されると考えた。
④ 各発達段階に固有のストレスフルなライフイベントがあると仮定し、それを危機と表現した。
⑤ 成人期後期に自身の子どもを養育する中で、その子どもに生成継承性<generativity>が備わると考えた。

公認心理師試験 第1回 問15)

 

 

解答


[1]
1、エリクソン
2、フロイト
3、ライフサイクル

 

[2]
1、フロイト
2、ライフ
3、信頼
4、アイデンティティ
5、親密性

 

[3]
1、自我同一性(アイデンティティ)
2、エリクソン
3、拡散
4、モラトリアム

 

[4]

5、3、1、4、2

 

[5]

 エリクソン(Erikson,E.H. )の漸成発達理論における、老年期の発達課題は、統合性であり、心理社会的危機(psychological crisis)は、絶望である。

 

[6]

3

 

①  ×6つの発達段階→8つの発達段階

② モラトリアムは、社会的な義務や責任を猶予されている準備期間

④ 各発達段階に発達課題があり、それに対する危機があると仮定した

⑤ 成人期後期(中年期)において、Generativityは、生産性・世代性などと訳され、その時期の発達課題である。